「君たちはどう生きるか」からのメッセージ①〜自分や世界と向き合う勇気 〜

「君たちはどう生きるか」向き合う眞人とアオサギ
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公開前の宣伝一切なしで7月14日に公開された宮﨑駿監督の映画「君たちはどう生きるか」。

事前情報がないことと宮﨑監督最後の映画になるのではということで興味が湧いて観に行き、先週さらにもう一度観てきました。

本記事はネタバレを含みます。ご了承の上お読みください。

目次

外観は「不思議の国のアリス」、中身は?

一言でいうと、ジブリ版「不思議の国のアリス」。

主要キャラクターの一人であるヒミがアリスのような出で立ちで、
作中に出てくる本の装丁が「不思議の国のアリス」の原型となった本の装丁と似ていることから、この作品をイメージして描いたと思われます。

しかしストーリーは異なり、他の複数の作品のエッセンスが見られます。
宮﨑監督が子供の頃にインスピレーションを受けた作品をオマージュしているのかもしれません。

考察する点はいろいろありますが、深く考えずファンタジーとして観ても十分楽しめると思います。

また、随所に過去作品のオマージュが散りばめられていて、この点でも楽しめます。


抽象的な表現が多いので、解釈が人それぞれ違うのも面白いですね。

私が受け取ったものはタイトルの通り「生き方」に関することでした。

美しさの中にある醜さ

全体的には美しいファンタジーですが、そこかしこで何気なく醜い部分や汚いものが描かれています。

人間の心の光と影

主人公を始めとした登場人物たちは、美しい心や良い面がありながらも、どこか暗い部分や醜い一面も持っています。

しかしこれは現実世界の人間なら誰にでもあるようなもの。

誰だって、一度は嘘をつくだろうし、本音を隠すし、意図せず人を傷つけてしまうこともある。
誰にも言えず一人で悩んだり葛藤したりすることもある。

こういったものを描き出していて、妙にリアルな人物描写になっています。

少年の良心と悪意

眞人(まひと)は純真さや優しさを持ち、勇気も行動力もある少年。

これまでのヒーローと同じかと思いきや、ずるさもあり、嘘をついたりごまかしたりします。

被害をでっちあげて学校を休み、被害者を装いつつも善人のように振る舞ったり、

人に嘘を見抜かれ指摘されると別の理由でごまかしたり、都合の悪いことを聞かれるとはぐらかしたり。

また、母の死を受け入れられない様子や、継母をそれとなく拒否する態度、継母のことばかり大切にする父への複雑な心境などの描写も見られます。

宮﨑監督は吉野太一郎氏(吉野源三郎氏の孫)との対談でこう語ったそうです。

陽気で明るくて前向きな少年像(の作品)は何本か作りましたけど、本当は違うんじゃないか。自分自身が実にうじうじとしていた人間だったから、少年っていうのは、もっと生臭い、いろんなものが渦巻いているのではないかという思いがずっとあった。

「君たちはどう生きるか」宮崎駿監督が、新作映画について語っていたこと。そして吉野源三郎のこと|好書好日

今回の作品では、現実の人間が抱える様々な思いを描いているんですね。

継母・夏子の葛藤

新しいお母さんとなった夏子は眞人の母・久子の妹。

母の死から1年で、もうおなかに子供がいます。

眞人にそのことを告げる時、なんだか無理のある態度で、言葉にも心がこもっていないように感じます。

当時は家の資産を守るために、配偶者が死んだ場合その近親者と再婚する「もらい婚」という慣習があったようです。

夏子からすれば姉の代理として結婚させられ、しかも子供の面倒まで見なければならない。
その子供を気遣い、思いやりをもって接しても、心を開いてもらえない。

家を守るためという役割と自分の気持ちの間で苦悩や葛藤があり、一人で悩んでいたのかもしれません。

父の正義感と無神経さ

「君たちはどう生きるか」勝一

眞人の父は正義感があり、妻と息子を愛し大切に思う一方で、鈍感で人を傷つけてしまう一面も。

母を失った息子の心に対する共感力がないし、学校に対する態度も息子がどう思われるか気にしていない様子。

本人は息子を大事にしているつもりで、良かれと思ってやっているのでしょう。
愛情は感じられるけど、ちょっとズレているんですよね。

勝一は、宮﨑監督ご自身の父親をイメージして描いたそうです。

嘘つきで卑怯なアオサギ

主人公と一緒に冒険の旅をするアオサギですが、眞人を塔へ誘い込む時のやり方が汚い。

嘘はつくし、すぐ裏切ろうとするし、騙すし、まったく信用なりません。

しかし眞人の優しさに触れるうちに、なんだかんだと眞人を助けるようになります。

二人がお互い文句を言いながらも助け合っている様子は、なんだか憎めなくて微笑ましいです。

悪に見える一面

一見悪に見えることも、実はそれぞれの事情を抱えていて、生きるためにそうしていることがうかがえます。

戦争で金儲けする父

眞人の父は軍需工場の社長で、国がどうなるかよりも儲けのことを考えています。

しかし父としては、家族を養うため、工場経営を存続させるためにこの仕事を請け負わなければならなかったのかもしれません。

そのおかげで眞人は裕福な暮らしができ、勤労奉仕せずに済み、徴兵も免れられます。

父の行為は家族を守り、生き抜くための方法とも言えます。

早すぎる再婚

慣習とはいえ、妻が死んですぐその妹と再婚したことに不快感を覚える人もいるのではないでしょうか。

しかし勝一は妻が死んだ後も相手の家を守り、屋敷の使用人達も雇い続け、責任を負ってくれていると見ることもできます。

生まれる命を食べるペリカン

ペリカンは大叔父に連れて来られ、その世界から出ることもできず、魚が減った海で飢えていました。

食べ物が他にないため、ワラワラを食べるしかありません。

生まれる命を食べるなんて、ペリカンだって本意ではないでしょう。
しかし食べなければ自分が死んでしまいます。

殺生するキリコ

キリコと眞人が巨大魚をさばく時、過剰なくらい内蔵が飛び出て血が飛び散り、生命を扱うシーンにあえて残忍さをもたせているように見えます。

しかしここでは黒い影は殺生できない存在で、ワラワラは赤ちゃんのようなもの。

彼らを食べさせていけるのはキリコしかいないため、キリコは命がけで巨大魚を釣り、殺生の役目を担います。


生きていくために仕方なくその生き方を選んでいる場合があります。

人がやりたがらない仕事を、周りのために引き受けている場合もあります。

家族を養うために本意でない仕事をして、辛いことがあっても耐えて働いている人もいます。

いろいろな生き方や事情があること、人の一面だけを見て判断することはできないこと、を示している気がしました。

大叔父の生き方に見たもの

大叔父は塔に引きこもり、石を積み上げて自分の世界を創りました。

しかし創った世界は非常に不安定で、なんとかバランスを保っている状態。

美しいのは大叔父の周辺のみで人が存在せず、下は増えすぎたインコで飽和状態、海は死の世界。

自分の理想の世界を創ると多くの犠牲が出て、望まないものまで増えてしまい、バランスがとれなくなる。

自分一人が描く理想の世界=自分だけに都合の良い世界を創ることは不可能だということを表しているように感じました。

歴史上の独裁者達も、最後は滅ぼされます。

理想の世界を創ると言いながら、結局のところ自分に都合の良い世界、自分がやりたい放題したい世界を創ろうとするからです。

自分中心に世界は回っていないし、世界を自分中心に回すこともできません。

自分や世界と向き合う勇気

大叔父が引きこもったのは、現実世界が嫌になって逃げ、別の場所で新しい世界を創りたかったからに見えます。

外側の世界に受け入れられない何かがある場合、どうすれば良いのでしょうか。

自分の本心と向き合う難しさ

眞人は母の死が受け入れられず、新しい母も受け入れられず、
父に傷ついていることを分かって欲しいのに分かってもらえず、

拒絶感や怒り、悲しみなどが渦巻き、自分の心の中に悪意が生じてしまいます。

その悪意が夏子を苦しめ、夏子に異変が現れても、眞人は素知らぬ顔で心配もしません。

ある日、母が残してくれた本「君たちはどう生きるか」を読んだ時、主人公の姿が自分と重なり、自分の間違いに気づきます。

そこからは徐々に変わっていきましたが、なかなか自分の本心や間違いを認められず、本当に変われたのは最後の最後。

自分の本心を見つめ、過ちを認めることがいかに難しいかを描いています。

世界をどう見るか

嫌なことがあって辛い思いをしたり何かに苦しむと誰でも逃げたくなります。

しかしこういう時、自分の辛い思いでいっぱいになってしまい、自分のことしか考えられなくなるものです。

感情に支配されてしまうと、自分は被害者だと思い込んで周りを悪者にし、真実が見えなくなります。

逃げずに自分や世界と向き合うことで、世界の見え方が変わり、悩み苦しみを解決できる自分になれます。

この作品は、やはりタイトル通り「どう生きるか」を考えることがテーマになっていると感じました。

その②に続きます!

キャラクター画像:スタジオジブリ提供「君たちはどう生きるか」作品静止画

参考:

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